アートに昇華したエンブロイダリー(刺繍)

初めまして。ロンドン在住のジュージーと申します。ロンドン大学にて美術史と考古学を学び、ロンドンに居ついてからかれこれ二十数年になりました。皆様の知的好奇心を満たしてくれるような題材を探していくつもりでおりますので、どうぞお付き合いくださいませ。
アートの都ロンドン
ロンドンは東のニューヨークと並び、西のアートの都です。大英博物館やナショナルギャラリー(国立美術館)に代表される美術館・博物館が200以上ある上に、公営や民営のギャラリー・画廊・オークションハウスも多数あります。私がイギリスへの留学を決めたのも、骨董商を営んでいた父に、15歳の時にロンドンのオークションへ連れてこられたことがきっかけでした。連日どこかでポップアップ(期間限定)の展示会や、アート・フェアーなども行われています。まさに毎日アートに触れることができる都市、それがロンドンです。
毎年ロンドンで行わるアートの即売会、「Afforable Art Fair」は大変人気があります(今年は5月10日から13日まで)。アートは高額で手が出せないという既成概念を崩すため、お手頃価格な(Affordable)アートのみを扱っています。価格は1万円相当から100万円以上までと様々です。国内外のギャラリーやアーティストが選りすぐったアートを持ち寄りますので、ウィンドウショッピングだけでも十分楽しめます。

公式サイト:https://affordableartfair.com/fairs/london-hampstead
SNS(ソーシャルメディア)を活用するアーティストたち
ロンドンっ子はアートのみならず、ファッションや音楽など、あらゆる世界のトレンドに敏感です。アーティストたちは世に出ることを夢見てロンドンに集まり、それぞれ発表の場を求めて活動しています。ギャラリーに認められて展示・販売をしてもらえる売れっ子アーティストもいれば、シェアハウスの自分の部屋をワークショップにして、毎日自身のSNSに作品をアップしているアーティストのヒナたちもいます。
皆さんの多くもSNSをご利用かと思いますが、アートに関してはインスタグラムが主要なプラットフォームになっています。画像を主体としているため、視覚に訴えるアートには最適なのでしょう。ある調査によるとイギリスでのインスタグラムユーザーの数は約1,700万人もいるそうです。
私もインスタ・ヘビーユーザーですが、特定のアーティストをフォローするよりも、アート系雑誌や総合誌、学術書の出版社などをフォローして、様々なアートを目にするようにしています。なかでもオススメは美術書の出版で有名なPhaidon(ファイドン)に関連した#Phaidonsnaps (フォロワー数9万人)です。洗練された多様な美(アート・写真・建築・オブジェ)などをいろいろと見ることができるので重宝しています。
刺繍はアートになった
最新版のインスタグラムでは特定のキーワード(ハッシュタグ)をフォローすることができるようになりました。アート、フード、旅行などの気になるキーワードに関連する画像をまとめて見ることができます。私はいろいろなハッシュタグをフォローしていますが、最近特に気になっているのが「#embroidery (#刺繍)」です。英語版では600万もの投稿がある大人気のカテゴリーになっているのです。
刺繍といえば皆さんも家庭科の時間に、欲しくもないクッションに犬の刺繍をクロススティッチした経験があるのではないでしょうか。とても忍耐と時間を要し、私にはとてもできない技です。
しかし最近はグッチやシャネルなどの高級ブランドも続々と豪華な刺繍を施したファッションを展開し、再び刺繍に注目が集まっています。ロンドンでも若い刺繍アーティストたちが増え始め、刺繍を教える学校やサークルなどが流行ってきています。
刺繍は古くから絹糸や金糸などを用いた時間とお金のかかる高級なものでした。王侯貴族の礼服などに施されているものを博物館なのでご覧になったことがあるかと思います。
しかし繊維技術の発達に伴い、より安価で糸を購入することができるようになったり、また大きな作業場を必要としないことなどから、都市部の小さなアパートに暮らす若者たちにもとっかかりやすい表現方法の一つとして認知され始めたのかもしれません。さらに絵画以外で「描く」ことができる刺繍は、画家ではないアーティストへも広まっていくこととなりました。
また通販サイト・アプリのなどの増加に伴い、個人が手作りの品を売ることができるプラットフォームが普及してきたこともあり、刺繍などの手工芸を始める人が増えてきたとも言えると思います。あるサイト上で刺繍に関する商品を検索すると87万点も販売されています。
刺繍のスタイルも、昔ながらの額縁に入った悲しげなカワセミの刺繍絵や、おばあちゃんがハンカチにしてくれたワンポイントの刺繍とは違い、絵画さながらのクオリティーのものが多く出てきています。以下にインスタグラム上で見つけた素敵な刺繍作品をご紹介します。
一見すると痛そうですが、何かしらエロチックなものを感じませんか。
セクシーなはずのマッチョ男性もなぜか哀愁を感じます。
約15万人のフォロワーを持つ超有名な刺繍アーティストさんです。枠からはみ出すおさげなど絶妙な構図とユーモアですね。
いかがでしたでしょうか。工芸品の刺繍がアートとなっていることを実感いただけましたでしょうか。
アートといえばルネッサンス期の絵画や、難解な現代アートなど、いわゆるハイ・アート(高尚な芸術)を思い浮かべてしまいますが、このような身近なアートも多く存在していることに気付くと、さらに人生が楽しくなりませんか。
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